皆さんは、RO浄水器という浄水器をご存じでしょうか。
RO浄水器はマリンアクアリウムにて使用されることのある特殊な浄水器で、
通常の家庭用浄水器では取り除けない物質をほとんど除去してくれる強力な浄水器です。
サンゴの飼育においてはこのRO浄水器を使用することで様々なメリットを得ることができます。
この記事ではRO浄水器の仕組みとサンゴ飼育に使用することにおけるメリットを解説していきます。
RO浄水器とは
RO浄水器は、RO膜を利用して様々な物質を除去する浄水器です。
RO膜とはReverse Osmosis Membraneのことを指し、
日本語では「逆浸透膜」と呼ばれています。
RO膜には0.00001ミクロンという微細な孔が無数に空いていて、ここに圧力を加えた水を通すことで
純粋な水分子だけが透過するという仕組みで除去が行われます。
逆浸透膜を通らなかった物質は多少の水と共に捨て水として排水されます。
一般的な浄水器は捨て水が発生しないのに対してRO浄水器は生産水に対して2倍程度の捨て水が発生するのが大きな違いです。
一般的な家庭用浄水器が残留塩素やトリハロメタン、鉄さびなどを吸着除去しているのに対し、
RO浄水器は分子レベルの不純物もほとんど除去し、その除去率は水道水中の不純物の95~98%と言われています。
RO浄水器を使用することでほとんど純粋な水(H2O)のみを取り出すことができるということです。
アクアリウムで使用されるRO浄水器には、更に不純物の除去率を高めるために
DIフィルターと呼ばれる吸着フィルターを使用することが多いです。
DIフィルターとは
DIフィルターは、イオン交換樹脂フィルターとも呼ばれ、
その名の通りイオンを吸着するフィルターです。
RO浄水器では取り除けなかったイオンを吸着することで更に純粋な水を生成することができます。
DIフィルターでは硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩の基となるイオンを吸着します。
RO浄水器とDIフィルターを組み合わせた浄水器をRO/DI浄水器と呼びますが、
この浄水器の不純物除去率は99%以上になり、ほぼ純水を生成することが可能です。
マリンアクアリウムにおいて硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩を水道水の段階から0にできることは非常にメリットが大きいので
基本的にはRO浄水器と組み合わせたRO/DI浄水器として使用することをおすすめします。
RO/DI浄水器を使用することによるメリット
RO/DI浄水器がほとんどの不純物を除去する凄い浄水器だというのは分かって頂けたと思います。
ではサンゴ飼育においてRO/DI浄水器により不純物を除去することによりどのようなメリットがあるのかを説明していきます。
1.完璧なパラメータの海水が作れる
あまり意識されないことが多いですが、実は人工海水は本来、
純粋な水(H₂O)に溶かして使用するものなのです。
というのも現在市販されている人工海水は基本的に輸入物なので
元々は海外のマリンアクアリスト向けに作られたものがほとんどです。
海外の水道水は日本の水道水に比べると不純物が多く、基本的にそのまま使用することはありません。
(そのまま飲めてしまう日本の水道水の綺麗さが異常なのですが笑)
海外のアクアリウム事情としてはサンゴ飼育にRO浄水器を使用するのは当たり前で、
こういったユーザー向けに作られている人工海水も当然RO浄水器で生成された水に使用することを前提に作られているという訳です。
水道水には当然様々なミネラル分が含まれていますので、
そのまま人工海水を溶かしたらミネラル分が本来想定された値(人工海水に記載の値)にならないことは容易に想像できます。
逆に言うと、RO浄水器を使用して初めて人工海水に記載された通りのパラメータの海水を作ることができるということです。
カルシウムやマグネシウムといった様々なパラメータの値が重要視されるサンゴ飼育において、
完璧なパラメータの海水で飼育をすることはサンゴの健康的な飼育に繋がります。
水換えをしてミネラルを補給しようと思ってもその水換えをする海水のパラメータがいい加減では水換えの効果も半減してしまいます。
まとめますと、海水飼育の全てのベースである人工海水の効果を最大限発揮するためには
RO/DI浄水器は使うに越したことは無い、ほぼ必須の機器であるといえます。
2.コケの原因である栄養塩を除去できる
DIフィルターを用いることで水道水に含まれる硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩を除去することができます。
これらの物質は栄養塩と呼ばれ、コケの栄養源であり、
つまりはコケが発生する原因である物質です。
これらの物質を水道水の段階で除去することで、コケが発生しにくい水質にすることができます。
逆に言うとDIフィルターを用いない場合、水換えを行うたびにこれらの栄養塩を水槽に入れてしまうことになり、
いくら水換えをしても栄養塩を減らすどころか増やしてしまうということも考えられます。
リン酸塩、ケイ酸塩は吸着材で除去ができますが水道水の段階で除去しておくのが望ましく、硝酸塩に至っては除去が難しいので
水道水の段階で除去しておくことは非常に大きなメリットとなります。
水道水を使用している場合とRO/DI浄水器を使用している場合とでは明らかにコケの生えるペースが変わるので
コケに悩まされている方はRO/DI浄水器を使用することを強くおすすめします。
3.サンゴが良く成長する
RO/DIフィルターを用いてサンゴの成長阻害となる栄養塩や重金属を取り除くことでサンゴが良く成長するようになります。
特にミドリイシなどのSPSサンゴではこれが顕著で、ニョキニョキと伸びるようになります。
実際に筆者もRO/DI浄水器を使用しだしてからスイッチが入ったかのようにミドリイシがグングン成長するようになり、効果を実感しました。
SPSサンゴが思うように成長してくれないと感じている方はRO/DI浄水器を使用してみると改善する可能性があります。
4.コンディショナーが不要になる
水道水で人工海水を作る際に必要だったカルキ抜きやマスキング剤が不要になります。
コスト・手間の面で多少楽になります。
足し水の際に生成した水をそのまま使えるのが地味に楽ができて嬉しいポイントです。
RO/DI浄水器の良くない点
RO/DI浄水器を使用することによるメリットは非常に多いですが、もちろんデメリットも存在します。
考えられるデメリットを挙げていきます。
コストが掛かる
RO/DI浄水器は特殊な機材なので結構なお値段のするものです。
安くて3万弱、高いもの(生成量の多いもの)だと5万円以上するものもあります。
また、カーボンフィルターやRO膜、DIフィルターといったフィルターは全て消耗品なので
定期的に交換する必要があります。
使用量にもよりますが1~2年に1度は2万円程度のフィルター交換費が掛かると思っておきましょう。
このように、RO/DI浄水器を使用することで様々なコストが掛かるというのは明確なデメリットだといえます。
水を作るのに時間がかかる
RO浄水器はその性質上、水を作るのに時間が掛かります。
RO浄水器の性能や家の水道の水圧、季節にも寄りますが、我が家の場合40Lの純水を生成するのに3~6時間程度必要とします。
普段は寝ている間に生成してもらっているので不便だとは思いませんが、
急に足し水や海水が必要になったときにすぐ水が用意できないのは若干不便を感じます。
生産量を上げたい方は性能の良いRO浄水器を使用し、後述する加圧ポンプを使用することで30L/hくらいまでは生産量を上げることができます。
(追記)
2023年現在では性能が向上したRO浄水器が登場しており、
20Lの貯水タンクを溜めるのに10分程度しかかからない製品も登場しています。
水を作るのに時間がかかるというデメリットは、時代と共にかなり緩和されてきているといえます。
捨て水が発生する
RO浄水器はその性質上、捨て水が発生します。
生成水量の2倍程度の捨て水が発生しますので、正直経済的にはあまりよろしくありません。
我が家は水道代が定額なのであまり気になりませんが、
そうでない場合は捨て水を風呂に溜めたり洗濯に利用したりして有効活用しましょう笑
捨て水とは言ってもセディメントフィルター、カーボンフィルターを通っている水ですので飲み水としてはともかく風呂や洗濯くらいなら問題なく使用できます。
RO/DI浄水器を効率よく使うコツ
RO/DI浄水器はうまく使うことで性能を最大限発揮させ、かつ各フィルターの寿命を延ばすことができます。
残留塩素の定期的なチェック
カーボンフィルターから出る生産水をチェックし、残留塩素が無いかを確かめます。
残留塩素がある場合はカーボンフィルターの寿命ですので交換を行います。
カーボンフィルターを寿命のまま使用し、残留塩素をRO膜に渡してしまうと
RO膜が急激に劣化してしまうのでカーボンフィルターは早めに交換しましょう。
RO膜は非常に高価なので安値なカーボンフィルターをケチってRO膜の寿命を縮めることの無いようにしましょう。
RO膜のフラッシング
フラッシングとは逆浸透膜の洗浄のことです。
通水した状態でRO膜の排水バルブを全開にすることで逆浸透膜の目詰まりを解消します。
2,3分通水させれば十分ですのでバルブを元に戻します。
RO/DI浄水器を使用した後にたまに行うことでRO膜の寿命を延ばすことができ、結果としてDIフィルターの延命にも繋がります。
加圧ポンプを使用する
加圧ポンプと呼ばれる圧力をかけるポンプを使用することで生成量を増やすことが出来ます。
また、RO膜は適正の水圧で使用しないと性能が落ちるため不純物が残り、結果としてDIフィルターの寿命を縮めることになります。
特にマンションの高層階では適正水圧に満たないことがほとんどですので加圧ポンプの使用は必須と言っても良いです。
そうでない場合も生産量を上げたい場合やフィルターの寿命を最大限伸ばしたい場合には加圧ポンプを使うべきだと言えます。
おすすめのRO/DI浄水器
最後にマリンアクアリウムでよく使用されているおすすめのRO浄水器を紹介します。
生産量ごとにいくつかの選択肢はありますが、
基本的に大は小を兼ねるものですので、予算が許せばハイスペックの機種を購入して置いた方が後々の後悔が少ないと思います。
(筆者は初めエントリー機種を買いましたが、結局生産量の多い機種が欲しくなり買い替えて無駄なコストを掛けてしまいました。)
エキスパートマリンZ 50
アクアリウム用途の浄水器では最も有名で、長く使われ続けているマーフィードの海水水槽用のRO浄水器です。
セディメントフィルター、カーボンフィルター、ROフィルターがセットになっています。
Z75は適正水圧で日産280LのRO水を生産することができるので
1時間当たり約12リットルのRO水を生産できます。
生産量からして小型水槽向きと言えます。
RO浄水器の中では最もお手ごろな機種ですので小型水槽ユーザーの方が始めに購入する機種として適しているのではと思います。
ただしこの機種にはDIフィルターは付属していませんので、完璧な純水を求めるのでしたら後述するDIフィルターを追加で接続する必要があります。
また、同じシリーズで生産量の異なるZ75とZ150もありますので必要なスペックと価格と相談してモデルを選ぶことができます。
そこまで値段も変わらないので予算が許せば生産量の多いZ75かZ150がおすすめです。
RGダッシュ(DIフィルター)
上記エキスパートマリンシリーズを販売しているマーフィード社より
エキスパートマリン用の追加接続用DIフィルターです。
エキスパートマリンをセットする台座が付いていますので
エキスパートマリンと組み合わせてRO/DIフィルターにしたい場合におすすめです。
既に説明している通り、RO浄水器はDIフィルターを組み合わせて
RO/DIフィルターとして使用することで不純物をほぼ排除した海水を作ることができるので
特にミドリイシなどの飼育が難しいとされているサンゴを飼育する方や
サンゴの色揚げのために水質に妥協をしたくないという方には必須の機材となります。
エキスパートマリン接続用のパーツなどは付属していませんが、
コスパ重視であればノーブランドの類似商品であるグリーンズのDIフィルターが安くておすすめです。
アクタス RO500G
2022年に登場し、アクアリウムにおけるRO浄水器の全てを過去にした衝撃の新製品です。
その特徴として、まず何と言ってもその生成量が過去のRO浄水器と比べ桁違いに多く、
驚異の日産500ガロン≒1900リットルです。
かつてRO浄水器の最上位機種として使用ユーザーの多かったクロノスレインという製品が日産約700Lだったことを考えると
とてつもない生成能力を持っていることがよくわかるでしょう。
更に素晴らしいのが、捨て水の割合もかなり抑えられている点です。
従来のRO浄水器では、生成水1に対して、どうしても捨て水が1.5~2以上発生してしまいました。
(適正水圧が確保できていない場合は生成水1に対し捨て水が3や4なんてことも・・・)
一方でアクタスRO500Gはなんと生成水:捨て水が2.3:1です!
生成水1に対して捨て水が0.5以下というとてつもない生成効率なのです。
また、加圧ポンプ内臓なのでどのような環境においても適正水圧を確保できる点
ポンプとカートリッジ一体型のスタイリッシュな本体
フィルターの交換時期を知らせてくれるお知らせランプ機能搭載など
あらゆる点で過去のRO浄水器にはない強みを持つ、RO浄水器のニュースタンダートと言える機種です。
予算と置き場所さえ確保できるのであれば、全ての飼育者に自信を持っておすすめできる最強のRO浄水器です。
唯一の注意点として、DIフィルターは内蔵していないため
RO/DIフィルターとして使用したい場合は別途DIフィルターを接続する必要があります。
その場合は前述したRGダッシュやグリーンズのDIフィルターがおすすめです。
TDSメーター
TDSメーターは、RO浄水器で生成した水のTDS値を測定する機器です。
TDSとは水の中に溶け込んでいるミネラルや金属などの溶存イオンの総量を示すものです。
TDSメーターを使用して生産水のTDS値を測定することで、
RO浄水器やDIフィルターがどれくらい不純物を処理しているかを知ることができます。
RO/DI浄水器ならTDSは0ppmに限りなく近くなりますので、
この値が大きくなるようならDIフィルターもしくはROフィルターの寿命ということがわかるようになります。
そこまで頻繁に使うものではありませんが目には見えないフィルターの寿命を数値で知ることができますので
余裕があれば浄水器と一緒に購入しておきましょう。
まとめ
RO浄水器、DIフィルターについて知ることはできましたでしょうか。
RO/DI浄水器はコストや生成の手間は掛かってしまいますが、その効果は絶大です。
特にSPSサンゴを飼育する場合は必須のアイテムだと筆者は考えていますので
プロテインスキマーや照明器具がそうであるようにRO浄水器も必須の機材の1つとして必ず用意するようにしましょう。
SPSサンゴの飼育をしないという場合でもコケの抑制やサンゴの成長促進/色揚げなど、様々な効果が期待できますので
無いよりはあった方が絶対に飼育が捗る機材であるといえます。
余裕があれば是非購入してその効果を実感して欲しいと思います。