アクアリウムでは水槽の底に敷く底砂は見た目を良くするために入れることが多いですが
実は水槽環境を向上させるという観点からも非常に重要な役割を持ちます。
特にバクテリアの繁殖が重要視されるマリンアクアリウムでは底砂は第二のろ過フィルターと言っても過言ではなく
底砂のありなしは水槽環境の安定性に大きく関わってくるため、ライブサンドと呼ばれる底砂を敷くことが一般的となっています。
この記事ではそんな底砂(ライブサンド)の役割や必要性、必要量、そして選び方について解説していきます。
海水水槽における底砂の役割
まず、そもそも底砂とはどういうものでしょうか。
底砂とは、読んで字のごとく底に敷く砂のことです。
海水水槽では多くの場合、天然のサンゴ砂が底砂に使用されます。
この底砂の役割は、大きく3つあります。
- 見た目がよくなる
水槽の底に何も敷かない場合、底のガラスがむき出しになり、見栄えがよくありません。
白いサンゴ砂を敷くことで自然の海中を再現し、見栄えが良くなります。
- ろ過能力の向上
底砂は、時間が経つとそこにろ過バクテリアが定着し、天然のろ過フィルターとしての機能を持つようになります。
また、厚く敷いた底砂の奥では還元ろ過と呼ばれる特殊なろ過作用が起こっており、
これにより普通のろ過では分解されず水換えをすることでしか対処できなかった
硝酸塩という有害な物質を分解し、窒素ガスとして水槽外に放出することができます。
また、底砂を敷くことで底砂内でゴカイやヨコエビといった生物が繁殖します。
これらの生物は残り餌や魚の糞、死体などを速やかに分解することで腐敗による水質の悪化を防いでくれます。
- 緩衝能力の向上
サンゴ砂、その中でも特に海水水槽でよく使用されるアラゴナイトサンゴという砂からは
ミネラルや炭酸、微量元素が徐々に溶けだしていきます。
これにより、水槽のpHやKHといった各種成分が
海水魚・サンゴ飼育に適した数値に維持されやすくなります。
この他にも、一部のハゼやジョーフィッシュ、チンアナゴや貝類を飼育する際は
それらの生体の住み家となったりするなど底砂には非常に様々な役割があることがわかります。
底砂を敷くデメリット
もちろん、メリットがあればデメリットもあるというのが世の常です。
底砂を敷くデメリットとしては大きく2つのことがいえます。
- 硫化水素発生の危険性がある
先ほどメリットとして、厚く敷いた底砂の奥では還元ろ過が行われると言いましたが、
これは底砂の奥深いところが酸素の少ない状態になっていて、
この状態を好む嫌気性バクテリアが繁殖しているために起こります。
この嫌気性バクテリアの中には前述した有益な還元ろ過をしてくれるバクテリアもいれば
有機物を分解し、硫化水素という物質を作ってしまうバクテリアもいます。
この硫化水素という物質は海水魚やサンゴにとって猛毒で、
底砂から飼育水に溶けだしてしまうと海水魚が中毒死してしまうことがあります。
硫化水素が発生する条件を明確にすることはできませんが、
底砂に動きがなかったり、あまりに酸素が少なすぎたりする場合に発生してしまうことが多いようです。
従って、硫化水素の発生を防ごうと思うと、底砂を撹拌してくれる生物(ムシロガイやゴカイなど)を入れたり、
水流を底砂表面にしっかりと当てたり、そもそも底砂を厚く敷かなかったりといった対策が必要となります。
硫化水槽の発生に関しては底砂を薄く敷くことでほぼ心配はなくなるので、
還元ろ過に期待しないのであれば底砂は厚く敷かないことをおすすめします。
- 病気の温床になる恐れがある
白点病などの病原菌の一部は底砂内部で繁殖することがあります。
このとき底砂を巻き上げてしまうと底砂内部に眠っていた病原菌なども一緒に舞い上がってしまい、海水魚に寄生・感染してしまうことがあります。
底砂を触らなければ問題になることは少ないですが、リスクを完全に排除したいのなら底砂を敷くのはやめるという選択も無しではありません。
【結論】底砂は必要?不要?
上記メリット、デメリットを考慮したうえで海水水槽に底砂を敷くべきなのか、そうでないのか
筆者の個人的な意見を述べますと、
1~2cm程度の薄めに敷くのがおすすめだと考えています。
まず第一に、底砂を敷いた場合と敷かない場合で見た目の自然感が大きく変わります。
底砂を敷かないと水槽底面が露出してしまい、どうしても人工物感が出てしまいますので
個人的には無しかなと思っています。
また、1~2cm程度の薄めに敷くというのがポイントで、
ゴカイやヨコエビなどの住処になる程度の厚さは確保しつつも、
硫化水素発生の原因になる嫌気域を作らない厚さにすることで
底砂のメリットを受けつつ、デメリットである硫化水素発生のリスクが抑えられます。
とはいえ、底砂のいる/いらないや敷く場合の厚さなどは
ベテランの飼育者の間でも意見が分かれる、正解の無い問題ではありますので
あくまで筆者の一意見として参考程度にしていただければと思います。
底砂の種類・選び方
底砂を敷くメリットデメリットについて知ることができましたら、
次は底砂の種類と選び方について見ていきます。
底砂の種類ですが、海水水槽で使用する底砂は一般的に
サンゴ砂もしくはアラゴナイトサンドと呼ばれる砂のどちらかとなります。
それぞれ砂の粒の大きさによる性質の違いもあります。
また、サンゴ砂、アラゴナイトサンドどちらも乾燥した(ドライ)状態で売られているものと、
ウェット(海水に浸された)状態で売られているものがあります。
それぞれメリットデメリットありますのでこちらの説明も含め解説していきます。
サンゴ砂
サンゴ砂は、死んだサンゴの骨格が長い年月を掛けて砂状になったものです。
結晶構造を持つ物質で、海水水槽では徐々に溶けだしてミネラル等を放出します。
こういったミネラルの放出があり、pHの維持が容易なため海水水槽ではサンゴ砂の使用が推奨されます。
アラゴナイトサンド
アラゴナイトサンドは沈殿堆積した炭酸カルシウム粒子と石灰藻などの骨格です。
サンゴ砂と同様に結晶構造を持つ炭酸カルシウム鉱物で、サンゴ砂同様に水槽内で徐々に溶け出すことでミネラルを供給します。
アラゴナイトサンドはサンゴ砂に比べて柔らかく崩れやすいため、より優れたミネラル供給能力、緩衝能力を持ちます。
また、構成物質中の窒素やリン酸など、溶け出すとサンゴにとって有害となる物質が少ないため、
溶出による飼育水の汚染が少ないのも特徴です。
特にサンゴ飼育をする場合にはアラゴナイトサンドはメリットが多いため、おすすめの底砂だといえます。
パウダー/ミディアム
サンゴ砂、アラゴナイトサンド共にパウダータイプのものとより粒の大きいタイプのものがあります。
パウダータイプのものは敷いた時の見た目が非常に美しくなりますが、
水流で舞い上がってしまいやすかったり
底砂内の密度が高くなるため嫌気層ができやすい≒硫化水素発生のリスクが高くなりますので
飼育初心者の方にはあまりおすすめしていません。
パウダータイプの底砂を敷くのでしたら厚さは2cm程度までに抑えておきましょう。
還元ろ過に期待しないのであれば1cm程度に薄く敷くのがリスクが少なく安心できます。
パウダータイプでないものでしたら、最大5cm程度敷くことで還元ろ過にも期待できますが
やはりリスクはありますのでリスクを減らすなら1~3cm程度までに抑えておきましょう。
また数種類の粒の大きさの砂をブレンドすることで底砂にランダムな隙間が生じ水通りも良くなるため、
様々な微生物が定着しやすくなりろ過作用の強化や生物相の多様化に繋がります。
ジョーフィッシュやチンアナゴなど特殊な生体を飼育しない限りは、パウダータイプのものを1~2cm程度敷くか、
パウダー~ミディアムサイズの粒をブレンドしたものを1~3cm程度敷くのがおすすめです。
乾燥(ドライ)砂/ウェットサンド
乾燥砂は、文字通り乾燥した状態で袋詰めされて売られている底砂のことをいいます。
乾燥砂を使用するメリットは、何といっても値段が安いことです。
ウェットタイプのものに比べて半額以下の値段で手に入れることができます。
デメリットとしては、使用前に洗う手間がかかることが挙げられます。
乾燥のサンゴ砂はよく洗ってから使用しないと濁りが発生し、この濁りがなかなか消えてくれない厄介なものです笑
また、この洗う作業というのも1回や2回洗った程度では全く濁りが取れず、
相当回数繰り返し米とぎの要領ですすぎ洗いをする必要があります。
底砂は60cm水槽で5~10L程度使用するので、この量を何度もすすぎ洗いするのは正直かなりしんどい作業です。
ウェット状態の底砂は少量の海水と共に湿った状態で袋詰めされている底砂のことをいいます。
ウェット状態の底砂を使用する最大のメリットは、
底砂にはじめからバクテリアが付着しているため、水槽の立ち上げ速度が段違いに早くなることです。
海水水槽では立ち上げ期間として数週間生体を入れずにフィルターだけ回すこともあるほどろ材や底砂へのバクテリアの定着に時間が掛かります。
この時間の掛かる底砂へのバクテリアの定着を待たずに済むのは
水槽立ち上げの際にかなりのアドバンテージとなります。
また乾燥砂を使用した場合だとバクテリアが定着していないため
立ち上げ初期は砂へのコケの付着がとんでもないことになることが多いですが
ウェット砂を使用した場合はそういったことが少なくなります。
立ち上げ速度はもちろんですが、その後の安定感もウェット砂を用いた場合は段違いに良く感じます。
また、ウェット砂は洗う必要がなく、そのまま水槽に入れるだけでいいというのも非常に嬉しいポイントです。
これらの理由から、海水水槽で使用する底砂は乾燥砂ではなくウェット砂を使用することを強くおすすめします。
また、ウェット砂の中には、天然の底砂を採取したものをそのままの状態で直送するライブサンドと呼ばれるものがあります。
このライブサンドは文字通りほぼ生の状態の生きている砂ですので、
水槽の立ち上がり速度やろ過能力は同じウェット砂と比べても更に段違いです。
値段は高くなってしまいますが、安定性や早い立ち上がりを求めるのなら非常におすすめの底砂だといえます。
以上底砂の種類と選び方でした。まとめると以下の表のようになります。
安全性重視 | 安定性重視 | |
海水魚水槽
ウェットorライブサンド推奨 |
サンゴ砂orアラゴナイトサンド
パウダー:~1cm ミディアム:~1cm |
サンゴ砂orアラゴナイトサンド
パウダー:~2cm ミディアム:~3cm |
サンゴ水槽
ウェットorライブサンド推奨 |
アラゴナイトサンド推奨
パウダー:~1cm ミディアム:~2cm |
アラゴナイトサンド推奨
パウダー:~3cm ミディアム:~4cm |
おすすめの底砂一覧
海水水槽に使用する底砂でおすすめのものを紹介していきます。
ここでは数種類しか紹介できませんが、基本的にはサンゴ砂やアラゴナイトサンドそれぞれメーカー毎に大きな違いはありませんので
値段や粒の大きさ、色味などで好みのものを購入しても大丈夫です。
水槽サイズ別の底砂の必要量の目安は以下の表の通りですので自分の水槽サイズと敷きたい底砂の厚さに合わせて購入しましょう。
水槽サイズ(底面積) | 必要量の目安(厚さ1cmにつき) |
30cmキューブ(30*30cm) | 1.5kg/1L |
45cm水槽(45*30cm) | 2.25kg/1.5L |
60cm水槽(60*30cm) | 3kg/2L |
90cm水槽(90*45cm) | 6.75kg/5L |
JUN 極上サンゴ砂
乾燥タイプのサンゴ砂です。
様々なタイプの底砂の中でも最も量当たりの値段が安いです。
既に述べた通り様々な理由から乾燥砂はあまりおすすめしませんが、予算に限りのある方やじっくりと時間をかけて立ち上げたい方はこちらを購入するといいでしょう。
粒のサイズを選ぶことができますが、上記リンクのNo3が水流で舞ってしまいにくくおすすめです。
#0番のパウダーもありますので薄く敷く場合はこちらもおすすめです。
ライブリーフベース オーシャンホワイト(10kg)
海水魚飼育用品大手のレッドシーから発売されているウェットタイプのアラゴナイトサンドです。
ウェットタイプなので洗う必要がなくすぐに立ち上げに使用でき、
バクテリアが多く付着しているので立ち上がりも早いです。
袋詰めタイプなので届いたらすぐに使わなくてはいけないライブサンドより使い勝手の点で優れているといえます。
レッドシーの用品はどれも高品質なのでこちらの底砂も非常におすすめできます。
カリブシー オーシャンダイレクト
カリブシーというメーカー(現在はカミハタが代理店)から発売されている
ウェットタイプのアラゴナイトサンドです。
このオーシャンダイレクトという製品は、
海で採取されたアラゴナイトサンドを海水ごとパッキングした製品で
カリブシーの底砂の中では最も立ち上げ能力に優れた底砂です。
カリブシーのウェットサンドは昔から多くのサンゴ飼育ユーザーに使用されてきた実績があります。
サンゴ飼育をするのならこの砂にしておけばまず間違いないというド安定の選択の一つだといえます。
筆者も何度か使用したことがありますが立ち上がりの早さと立ち上げ後の安定感が素晴らしいです。
粒サイズは0.5mm~1.5mmのミディアムスモールですので
水流で舞いにくいというのもサンゴ水槽におすすめなポイントです。
charm ばくとサンド
海水魚通販最大手のチャームが販売するライブサンドタイプのサンゴ砂です。
このサンゴ砂は、天然のサンゴ砂をチャームの施設で1か月以上天然海水とバクテリアを使って熟成させたものです。
そんなバクテリア豊富なウェットサンドを出荷当日に水揚げしてパッキングするので極めて新鮮な状態で届きます。
これは本来の天然採取のライブサンドと同等かそれ以上の能力を持っていると言ってもいいでしょう。
筆者はこれまでこのチャームのばくとサンドを使用して10回以上水槽を立ち上げていますが、
翌日には生体を入れれるような驚きの立ち上がりの速さを実感しています。
チャームの回し者ではありませんが本当におすすめできる最高の底砂だと感じています。
少し高めの値段と届いたその日に水槽を立ち上げなくてはいけないという新鮮さ故の扱いにくささえ気にならなければ
海水水槽には絶対にこの砂がおすすめと自信をもって言えるベストバイな底砂だと思います。
生麦海水魚センター 養殖ライブサンド
30年以上の長い歴史を持つ海水魚ショップである生麦海水魚センターが発売している
ショップオリジナルの養殖ライブサンドです。
こちらも上記charmのばくとサンドと同様、サンゴ砂をバクテリア豊富な海水で熟成させた養殖のライブサンドです。
charmと違い実店舗でも販売しているので、実際に店舗で購入して好きなタイミングで水槽の立ち上げを行いたい場合におすすめです。
生麦海水魚センター公式通販での販売ページはこちら
まとめ
海水水槽での底砂の必要性や種類について知ることができましたでしょうか。
底砂についてはベテランの方でも意見が分かれることも多く、本当に色々な意見がありますのでこれが正解というのが難しいです。
筆者の個人的な意見としては1~2cm程度の厚さでウェットタイプのライブサンドを敷くのが安定だと考えています。
とりあえず薄めに敷くことで見た目も良く、問題も起きにくいので飼育初心者の方ははじめは薄めに底砂を敷くことをおすすめします。