ミドリイシはサンゴの中でも飛びぬけて飼育難易度が高く、上級者向けのサンゴの代名詞とも言える存在です。
この記事では、そんなミドリイシ(SPSコーラル)の飼育方法、維持について解説していきます。
ミドリイシとは?
ミドリイシとは、硬い外骨格を持つサンゴ(ハードコーラル)のうちでもイシサンゴ目ミドリイシ科に属するものを言います。
ミドリイシ科には更に細かい分類があるのですが、一般にマリンアクアリウムの世界で言うミドリイシは
Acropora(ミドリイシ属)とAnacropora(トゲミドリイシ属)を指します。
ミドリイシは見た目としては岩のようなサンゴで、普通サンゴ礁と言われて想像するものはそのうちの多くがミドリイシで構成されています。
また、ミドリイシと分類が近く、同様に飼育難易度が高いサンゴたちをまとめてSPSと呼ぶのですが、
SPSにはミドリイシの他に、ミドリイシ科コモンサンゴ属に属するコモンサンゴ、
イシサンゴ目ハナヤサイサンゴ科に属するハナヤサイサンゴ、トゲサンゴ、ショウガサンゴなどが含まれます。
これらのミドリイシ以外のSPSも飼育方法や性質はほぼミドリイシに準じますので、
ミドリイシの飼育≒SPSの飼育、SPSの飼育≒ミドリイシの飼育と考えても差し支えないでしょう。
この記事ではミドリイシの飼育について解説をしていますが
コモンサンゴ、ハナヤサイサンゴ、トゲサンゴやショウガサンゴを飼育する場合にも基本的にはこの記事を参考にしてください。
ミドリイシは飼育難易度が高い?
ミドリイシは、一般に飼育難易度が高いと言われています。
家庭で飼育できるサンゴの飼育難易度としては最も難しいとも言われます。
実際に飼育歴15年超(うちミドリイシは10年超)の筆者が思うに、これは間違っていないと思います。
陰日性サンゴなどの飼育方法が特殊なサンゴを除けば、確かに飼育難易度としては最も難しいと言っても過言ではないです。
ただ、10年、20年前とは異なり今では飼育機材や飼育メソッドが更に発展してきており、
以前より飼育が容易になっているのも事実です。
筆者が実際にミドリイシ水槽を維持してきた経験を踏まえ、ミドリイシの飼育難易度について聞かれたら、
「機材さえ揃えれば飼育は容易、ただし色揚げを考えるなら話は変わってくる」と答えるでしょう。
正直なところミドリイシは、必要な機材さえ揃えれることができれば飼育は容易です。
給餌の必要もなく、ある意味ではLPSよりも簡単かもしれません。
ただし、色揚げとなると話は別で、色揚げには照明の選び方、照射方法、色揚げしやすいサンゴの選定やレイアウト、添加剤を使用した超低栄養塩環境の構築など、機材だけでない経験に基づいた知識が必要となってきます。
これらのいわゆる飼育スキルと呼ばれるものは定量的なものではなく、簡単に説明できるものではないので経験によって身に着けていくしかありません。
ミドリイシの色揚げにはこういった飼育スキルの習得が必要不可欠であり、この点はミドリイシの飼育難易度が高いと言わざるを得ない部分です。
機材さえ揃えれば飼育はそこまで難しくはないとはいえ、機材を揃えるのに費用もかかり、色揚げの飼育スキル習得には経験が必要となることを総合的に踏まえると
ミドリイシの飼育は難しいというのは総合的に見て間違いないといえます。
ミドリイシ(SPS)の飼育環境
さて、ミドリイシの飼育が難しいということがわかったところで、具体的にミドリイシの飼育環境について考えていきます。
まずはミドリイシの飼育難易度が高いとされる2大要因の水質と光環境、加えて水流と食害について解説していきます。
水質
ミドリイシを飼育する上で水質は絶対に無視できない要素です。
ミドリイシは水質悪化に極めて弱く、飼育をするには良好な水質を継続的に維持していく必要があります。
具体的には栄養塩、すなわち硝酸塩、リン酸塩は限りなく0に近づける必要があります。
すなわち硝酸塩を断続的に発生させ続ける、フィルターを用いた通常ろ過では飼育は困難で、
強力なプロテインスキマーを用いた、硝酸塩の発生を抑えるベルリンシステムでの飼育がほぼ必須となります。
魚を同時に飼育する場合にはリン酸塩も発生してしまうので吸着剤などを用いて除去する必要もあります。
ベルリンシステム以外の飼育方法として、
・ゼオライトを用いたZEOvitシステム、
・ミラクルマッドと呼ばれる泥を用いたエコシステム
など特殊な飼育方法もありますが、この記事ではオーソドックスなベルリンシステムでの飼育を前提として解説していきます。
また、水温の変化、高水温にも弱いので夏場の水槽用クーラー、冬場のヒーターといった温度管理も必要不可欠です。
加えてミドリイシはサンゴの中でも造礁性サンゴと呼ばれる、ものすごいスピードで炭酸カルシウムの外骨格を形成しながら成長していくサンゴなので
カルシウム値、すなわちKH値の維持が必須となります。
このためにカルシウム添加剤の投入あるいはカルシウムリアクターと呼ばれる機材の設置が必要となります。
具体的には、以下の表のような条件がミドリイシを健康に飼育できる理想の条件となります。
水温 | 25℃前後 |
塩分濃度 | 35ppt(1.025@25℃) |
硝酸塩(NO3) | 0.5ppm以下 |
リン酸塩(PO4) | 0.02ppm以下 |
炭酸塩硬度(KH) | 7以上 |
カルシウム(Ca) | 430ppm前後 |
マグネシウム(Mg) | 1280ppm前後 |
このようにミドリイシは要求する水質の条件が非常に厳しく、それに伴い必要となる機材も多くなることで飼育ハードルが高くなってしまいます。
光環境
ミドリイシの飼育を語る上で外せないもう一つの要素が光環境です。
ミドリイシはサンゴの中で最も強力な光を必要とする種で、
ミドリイシのほとんどが熱帯地域の海の水深0~5mという非常に浅い場所に生息していることからもこのことがよくわかります。
従ってミドリイシの飼育には太陽光線のような強力な照明が必要になることがわかるでしょう。
現在、家庭での飼育で浅い海の太陽光線レベルの光を照射できる照明として、メタハラとLEDが挙げられます。
メタハラは、正式名称メタルハライドランプ、身近なところでは野球場やテニスコートのナイター照明などに利用される非常に強力な光を発生させることができる照明です。
アクアリウム用のメタハラは150~400W程度のものが主流で、場合によってはこれを複数多灯させて使います。
メタハラはサンゴ、特にミドリイシの飼育に昔から利用されてきた照明で、確かな実績があります。
一方で消費電力が高い、交換球が高価、熱量が大きく水温を上げてしまうなどのデメリットもあります。
一方、LEDはここ最近急速に発展してきた照明で、ここ数年でミドリイシの飼育にも実用的な性能を持つアクアリウム用LED照明が続々とリリースされました。
メタハラに比べ実績はまだまだですが、低消費電力、長寿命、また調光機能やプログラムタイマー機能などメタハラにはない強みを多く持っています。
今後はより注目され、最終的にはメタハラに取って代わる照明となるでしょう。
今からミドリイシの飼育を始めるのであれば、LEDでの飼育を強くおすすめします。
ミドリイシが飼育できるレベルの高性能LEDは非常に高価ですが、メタハラとの消費電力差やクーラーの稼働率を考えれば数年でペイできますし、
性能を考えれば決して高すぎるということはありません。
特に拘りが無い限り、今後消えていくであろうメタハラでの飼育は避けるのが無難だといえます。
また、ZEOvitシステムでの飼育の場合T5と呼ばれる蛍光灯を用いることもありますが、
ベルリンシステムでの飼育では光量不足、波長不足になりがちなのでこちらもベルリンシステムで利用するメリットは少ないと考えてください。
(2023/10 追記)
2023年現在ではでサンゴ飼育においてLEDはメタハラに完全に取って代わる存在となりました。
現在ではミドリイシに限らず、サンゴを飼育する場合はほぼ100%LEDを選択することになります。
水流
どんなサンゴの飼育にも言えることですが、そのサンゴに適切な強さの水流を当てることは非常に重要です。
ミドリイシは強くて複雑な水流を好みます。
理由は様々言われていますが、小さなポリプを無数に持つミドリイシは、そのすべてのポリプに水流が行き渡るよう強めの水流を必要とするといった説だったり、
複雑な枝形状を持つミドリイシは根元に水流が行き渡りにくいので複雑な水流を必要とするといったことが言われています。
筆者の経験でも、ミドリイシの飼育において、水流は強いほうが明らかに調子が上向くのでこれは間違ってはいないと感じます。
ただ勘違いしてほしくないのは、水流を当てるといっても、直接当てるのはNGということです。
ミドリイシに水流を直接当ててしまうとその直接当たっている部分にコケが生えたりして最終的にその部分が死んでしまうことが多いです。
あくまで間接的に、ガラス面で拡散させたり、水流同士をぶつけたりして水槽内にランダムな水流を発生させることを意識しましょう。
水流を当てるというよりは水槽内の海水を全体的に動かすといったイメージを持つといいでしょう。
よってミドリイシの飼育には強力な水流を発生させることのできる水流ポンプも必須のアイテムだといえます。
食害
ミドリイシは無数の小さなポリプの集合体で、いわばこのポリプ一つ一つがミドリイシの本体です。
チョウチョウオや一部のヤッコなどはこのポリプを好んで食べてしまいます。
ポリプが食べられた部分はもちろん死んでしまいますし、危険を感じたミドリイシはそれ以外の部分のポリプを全て閉じてしまいます。
ポリプを閉じた状態のミドリイシは代謝が落ち、成長が遅くなり、発色も悪くなり、最悪の場合死んでしまうこともあります。
こういった状態にしないためにも、ミドリイシはミドリイシを食べてしまう可能性のある生体とは一緒に飼育すべきではありません。
小型ヤッコくらいならミドリイシを殺すほどの食害はありませんが、ミドリイシの色揚げ、成長を犠牲にする覚悟は必要です・・・。
ミドリイシ(SPS)の飼育設備
ミドリイシの飼育環境がどんなものかわかったところで、具体的にミドリイシを飼育するために必要なものを解説していきます。
水槽
ミドリイシは水質の変化に弱いので、出来る限りサイズの大きい(=水量の多い)水槽を用意するべきです。
なぜならサイズの大きい水槽は良くも悪くも水質の変化が穏やかだからです。
60cm規格水槽(約60L)程度のサイズの水槽でも飼育は可能ですが、成長や色揚げを考えるとミドリイシの飼育には少し狭いと言わざるを得ません(経験談)
海水魚の飼育、簡単なサンゴの飼育でしたら筆者は手軽さや周辺機材の充実さから60cm規格水槽をおすすめしているのですが、
ミドリイシの飼育に関しては例外的に90cm以上の水槽で始めることをおすすめします。
また、プロテインスキマーやカルシウムリアクターなど、別途必要になる機材が多いので、
それらを設置する濾過槽のあるオーバーフロー水槽であることも実質、必須条件だといえます。
オーバーフロー水槽でしたら濾過槽の分、水量も増え一石二鳥なのでミドリイシ飼育をするのでしたら絶対にオーバーフロー水槽にすることをおすすめします。
ろ過装置
前述しましたが、ミドリイシの飼育ではプロテインスキマーを用いたベルリンシステムでの飼育がほぼ必須となります。
よってろ過装置として強力なプロテインスキマーが必要になります。
ベルリンシステムについては以下の記事で詳しく解説していますので、知らない方は読んでおくことをお勧めします。
プロテインスキマーはミドリイシ飼育でしたら濾過槽設置型の強力なものを選びましょう。
DCポンプ搭載の静かで強力なスキマーが最近の流行りです。
プロテインスキマーの仕組みやおすすめのプロテインスキマーについては以下の記事を参考にしてください。
照明
基本的にハイパワーなサンゴ飼育用LED照明を使用します。
LED照明を使用する場合、まずは上記Radionのようなメインとなる高出力のシステムLED照明が必要になります。
それに加え、明るさが足りない場合や波長が足りない場合、それに応じて補助としてスポットタイプのLEDを追加していきます。
最近のシステムLEDは非常に高性能なのでメインとなるシステムLEDのみで十分な場合も多いです。
LED照明の必要数についてですが、90cm水槽を例にするとLEDの場合は合計400Wは最低でも欲しいところです。
水流ポンプ
前述しましたが、ミドリイシ飼育に水流ポンプの設置は必須です。
特にミドリイシは強力で複雑な水流を好むのでそういった水流を発生させることのできる水流ポンプが必要になります。
カルシウムリアクター
プロテインスキマーに次いでミドリイシを飼育する際の水質維持の要となる装置です。
プロテインスキマーが除去の達人ならこちらは補充の達人といえるポジションです。
KHの維持やストロンチウムなど各種微量元素の補充を担っています。
最近では添加剤を使ってKHや各種微量元素を補充する飼育方法もありますが、安定性やコスパはこちらが勝っていると思います。
また、そういった飼育方法をする際にもリアクターの併用が可能ですのでリアクターは基本的に必須だと考えておきましょう。
クーラー/ヒーター
海水魚の飼育やほかのサンゴの飼育でも必要となるものです。
ミドリイシはサンゴのなかでも特に水質の変化に敏感なので
余裕を持ったサイズのクーラー/ヒーターを用意してできる限り水温の変動が少なくなるようにします。
特に強力なLED照明を使用するミドリイシ水槽では夏場の水温上昇が想像以上になることが多いので注意しましょう。
人工海水
基本的には海水魚や他のサンゴを飼育する場合に使用するものと同じもので大丈夫です。
ただし、水槽内のミドリイシの数が多かったり、良く成長しているミドリイシ水槽では
基礎成分(KHやカルシウム、マグネシウム)が強化配合された人工海水を使用することでミドリイシの飼育・成長をサポートすることができます。
コーラルプロソルトはミドリイシの飼育向けに基礎成分が強化配合されているのでミドリイシ水槽におすすめの人工海水です。
筆者も5年以上に渡って愛用しています。
まだミドリイシの個体数が少ない場合や、成長よりも色揚げを優先したい場合にはレッドシーの人工海水のスタンダートモデルであるレッドシーソルトがコスト面でおすすめできます。
ライブロック/ライブサンド
ベルリンシステムの第二の心臓とも言えるライブロック、ライブサンドはミドリイシ飼育でも重要となります。
ライブロックは自然なろ過プロセスによる生物ろ過フィルターとして、また様々な生物群の住み家としての役割があります。
バクテリアフィルムが形成されているためコケの生えにくいライブロックはレイアウトの土台としても適しています。
水槽の総水量÷10[kg]を目安に入れましょう。
(例:90cm水槽で約180Lなのでライブロックはおよそ18kg程度必要)
ライブサンドについても生物フィルター、バクテリアの住み家としての役割がありますが、
底砂については入れる入れないで賛否両論ありますので必須とは言いにくいです。
筆者としてはライブサンドはあった方が水槽の立ち上がりも劇的に早く、
また水質悪化や水質変動に対する緩衝能力も高くなりますので入れることを推奨していますが
病原菌の蓄積などのリスクもあり一長一短だといえます。
RO/DI浄水器
水道水には殺菌のための塩素はもちろん、重金属や栄養塩など多くの物質が含まれています。
このうち、重金属や栄養塩はごく微量に含まれているだけで、
生体に与える影響が大きくないため普通は無視されることがほとんどです。
海水魚の飼育や簡単なサンゴの飼育でしたら水道水はカルキ抜き(塩素除去)処理だけして人工海水を溶かせばそれで飼育ができます。
しかし、ミドリイシは水質の変化・悪化に極めて弱いため
こういった微量の重金属や栄養塩でも問題になることがあります。
従って、ミドリイシを飼育する場合はこういった微量の重金属や栄養塩を水道水の段階から取り除くことが好ましいです。
RO/DI浄水器は、一般的な浄水器が塩素を取り除くだけなのに対し、
こういった重金属や栄養塩もろ過し、無害化することができます。
つまり、RO/DI浄水器を使用することでミドリイシの飼育に適した水を作ることができるということです。
また、リン酸塩やケイ酸塩といったコケの原因となる栄養塩を水道水の段階から取り除けるので、
結果として水槽にコケが生えにくくなるというメリットもあります。
ミドリイシ飼育に必ずしも必要という機材ではありませんが、使用した場合のメリットが非常に多く、
デメリットは水を作るのに若干時間が掛かってしまうということくらいなので、予算さえ許せば導入しておきたい機材です。
筆者が初めてミドリイシを飼育した時にはRO/DI浄水器無しで飼育を始めましたが
後日RO/DI浄水器を購入すると嘘みたいにミドリイシの成長速度が速くなりました。
ミドリイシはサンゴの中でも特に水質に敏感なサンゴですので、水換えの重要性は極めて大きいです。
その水換えの元となる水道水に害があっては元も子もないので、
やはりRO/DI浄水器はミドリイシを飼育するなら確実に導入しておきたい機材だと筆者は考えています。
ミドリイシ導入の前に
ミドリイシの飼育に必要なものが揃ったら水槽を立ち上げていきます。
水槽の立ち上げについては一般的な海水水槽の立ち上げに沿った方法で問題ありません。
注意するとすれば、やはりミドリイシはある程度の水質を要求するサンゴですので、
立ち上げはゆっくりじっくりと行うべきだということです。
出来ることならば立ち上げ→海水魚の導入→簡単なサンゴの導入と順序を踏んでミドリイシの導入へ持っていきたいところです。
さて水槽を立ち上げ、いざミドリイシを買いに行こう!
とその前にいくつかチェックをしてからミドリイシを導入しましょう。
- 水質は問題無いか
既に述べましたが、ミドリイシは水質悪化に非常に弱いサンゴです。
導入前に、自分の水槽はミドリイシが飼育できる環境なのか、試薬を使ってもう一度チェックしておきましょう。
様々な水質項目があるのですが、最低限、硝酸塩濃度とKH(炭酸塩硬度)くらいは測定しておきましょう。
硝酸塩は1ppm以下、KHは7~9°くらいを目安にミドリイシを入れても問題がないか判断しましょう。
- スペースに余裕はあるか
ミドリイシは状態良く飼育していると非常に速い速度で成長しますので、導入予定の場所は広いスペースを確保しておいた方が良いです。
特に前面ガラスや側面ガラスの付近は、ミドリイシが成長しすぎると手が入らなくなり、
ガラス掃除ができなくなってしまったりしますので、出来る限り水槽の中心付近に置くのをおすすめします。
水槽の中心付近なら、照明も良く当たっているでしょうし、こういった意味でも水槽の中央付近はミドリイシの席として空けておくようにしましょう。
ミドリイシ(SPS)の飼育のコツ
ここからは実際のミドリイシの飼育について説明していきます。
といっても、ミドリイシの飼育は機材さえ揃っていれば基本的には他のサンゴと変わらない飼育方法と思って頂いても大丈夫です。
毎日観察し、毎週の水換えをかかさず行う。
やるべきことはシンプルにこれだけです。
(厳密に言うとスキマーやリアクターのメンテナンスもあるのですが笑)
ミドリイシ(SPSサンゴ)の飼育で特に注意する点をピックアップしていくつか解説していきます。
水換えは最重要!
ミドリイシ飼育において水換えは最重要事項となります。
というのも、ミドリイシは低栄養塩の環境を好み、かつミネラルの消費が非常に早いサンゴですので、
栄養塩を減らすことができ、かつ消費されたミネラル分の補充もできる水換えが非常に効果的だからです。
従って、ミドリイシ飼育においては水換えはすればするほどよいものだと考えましょう。
ミドリイシの成長促進用に様々な添加剤が販売されていますが、
正直に言わせてもらうとこれらは水換えをしっかりと行っていれば全く必要のないものです。※
添加剤を買うお金と毎日添加する時間があればそのお金と時間を使ってとにかく水換えをしてください。
(※純粋なベルリンシステムにおける、パラメータ調整系の添加剤に限った話です。システムや添加剤の種類によっては有用な物ももちろんあります。筆者の場合、炭素源とヨウ素は有用だと感じているのでベルリンシステムでも添加をしています。)
とはいえ、あまりに大量の海水を一度に換えてしまうと環境が一気に変わりすぎてミドリイシが機嫌を損ねることがありますので、
1度の水換えで総水量の5割以上を換えてしまわないよう心がけましょう。
目安としては、週に1度総水量の2~3割の水換えをしていれば、まず問題なくミドリイシを維持できるはずです。
(ベルリンシステムで機材が水槽に合った容量のものを使用している前提)
参考までに、筆者は総水量約250Lのベルリンシステムの水槽で、週1度の50L弱の水換えでミドリイシや各種SPSを維持しています。
また、水換えをする海水作りにもこだわるとなお良いです。
RO/DI浄水器を用いて溜めた水を使用するのはもちろんなのですが、海水を溶かす際にエアレーションをすると様々なメリットがあります。
成分がよく溶ける、溶存酸素量を上げることができるなど、やって損はないので海水を溶かしてから1時間以上はエアレーションを行うようにしましょう。
筆者は必ず一晩エアレーションをしてしっかり曝気した海水で水換えを行うことを心がけています。
※使用する人工海水によってはエアレーションを非推奨しているものもあるので注意
ミドリイシの飼育で躓いたとき、まず第一に適切な手順で、適切な頻度で、適切な量の水換えをできているかを確認しましょう。
吸着剤は正義!
硝酸塩は出ていないのに白化してしまう、ミドリイシが成長しない、そんなときはリン酸塩を疑ってみてください。
しっかりと水換えを行っている水槽でも、魚が入っていれば思っている以上にリン酸塩が蓄積していることがあります。
特に、ミドリイシ水槽ではリアクターメディアからリン酸塩が溶け出すこともあり気付かないうちにリン酸塩濃度がミドリイシの許容範囲を超えている場合もあります。
こういった疑いがあるときは迷わずリン酸塩の吸着剤を使用しましょう。
リン酸塩の吸着剤は非常に強力にリン酸塩を吸着してくれます。
吸着剤を入れることによるデメリットは無いに等しく、
メリットとしてはミドリイシの天敵である栄養塩を減らし、ついでにコケ対策にもなったりと入れない理由が無いです。
吸着剤を入れていない方は今すぐ入れることをおすすめします。
水流は強すぎるくらいで丁度いい
ミドリイシは強くて複雑な水流を好むというのは何度も述べましたが、それでも繰り返し言います笑
というのも、おそらく皆さんが思っているよりずっと強い水流がミドリイシにとっては適切な水流だからです。
筆者は沖縄でミドリイシの生息する海に何度も潜っていますが
そこはかなり波が速く、気を抜いているとあっという間に遠くに流されてしまうような場所がほとんどです。
そんな環境で生きているサンゴですので、水槽内でいくら水流を強くしようが、それが強すぎるということはまず無いと考えられます。
(もちろんミドリイシに水流を直接当ててしまっている場合はまた話が変わってきますが)
ミドリイシ水槽は洗濯機と揶揄されることがありますが、本当にそれくらいの流れの速さがミドリイシにとっては適切な水流だと感じます。
従って、水流を考える際にはやりすぎなくらいで丁度いいのだと思うようにしましょう。
ただしあまりに強すぎるとミドリイシにとっては適切でも他のサンゴや海水魚にとっては強すぎるということもありますので、
水槽内の生体のバランスを考えてどのような水流が最適なのか、水槽全体で考えるのがいいのではと思います。
触らず動かさずが基本!
ミドリイシは岩場に固着しているサンゴですので、動かされることに慣れていません。
ミドリイシは動かしてしまうとそこから3日は成長が止まってしまうとも言われますので動かさないに越したことはありません。
レイアウト変更などは極力しないようにし、また掃除などで水槽に手を入れる際にも触らないように気を遣いましょう。
また、水流やコケ取り生体(貝やカニ、ヤドカリ)などによってグラグラと動いてしまうのも同様にミドリイシにとって良くないです。
こういったことが起こらないように、ミドリイシは基本的にライブロックに接着してレイアウトするようにしましょう。
土台に固着したミドリイシとそうでないミドリイシとでは明らかに成長速度、白化確率に差が生じます。
ライブロックへの接着には専用の接着剤か市販の瞬間接着剤を使用します。
市販の瞬間接着剤を使用して問題が生じたことはありませんが、心配な方はアクア用の物を使用すると良いでしょう。
水質測定は定期的に!
既に述べた通り、ミドリイシは水質の変化に敏感、かつ成長が速いので成長に伴って水質に与える影響も大きいサンゴです。
従って、定期的に水質を測定することは水質の変化及びミドリイシの状態を見極める重要な手段となります。
ミドリイシの飼育に重要な水質の要素は多く存在しますが、最低限水温、比重、硝酸塩、KHは定期的に測定しておきたい項目です。
水温、比重に関しては変動しやすいので可能ならば毎日のチェックを、硝酸塩、KHについては週1回もしくは2週に1回くらいの頻度で測定し、値を把握しておきたいです。
これらの値に応じて水換え量を増やしたり、カルシウムリアクターを調整したり、添加剤を入れたりして目標のパラメータを維持していきます。
魚は出来る限り少なく!
ミドリイシと一緒に飼育する魚の数に比例して発生する栄養塩も増え、水質悪化の速度も速くなっていきます。
ミドリイシの飼育において栄養塩は害にしかならないものです。(とはいえ栄養塩が全く無いというのも問題なのですが)
従って、ミドリイシの健康な飼育のみを考えると魚の数は少なくするに越したことはありません。
ベテランの方でミドリイシ水槽に多くの海水魚を群泳させている方もいますが、
これは強力な機材や添加剤の力によって強引に維持しているに過ぎず、水槽本来のキャパシティで考えると完全に容量オーバーなことが多いです。
ミドリイシの飼育が初めての方や、とにかくミドリイシを上手に飼いたいという方はできる限り水槽に入れる海水魚は少なめに抑えておくのが吉だといえます。
極端な話、ミドリイシの成長、色揚げを最優先に考えた場合、魚を一匹も入れないという選択もあります。
魚を入れないミドリイシ水槽では栄養塩が極めて少なくなり、ミドリイシの色彩が淡いパステル調になる場合が多いです。
まとめ
ミドリイシ(SPS)の飼育について知ることができましたでしょうか。
ミドリイシはあらゆるサンゴの中で最も飼育難易度の高いサンゴといっても過言ではありません。
しかし、ミドリイシにはその飼育難易度の高さに見合った美しさ、面白さがあります。
ミドリイシ(SPS)でまとめられた水槽は他のサンゴでは絶対に造れないダイナミックかつナチュラルな水景となります。
飼育が難しいとはいえ、機材さえ揃えてしまえば他のサンゴとあまり変わらない感覚で飼育することができますので、ミドリイシの飼育に興味のある方は是非チャレンジしてみてください。